これを読めば、ゼロから立派なキャバクラ黒服(ボーイ)になれる!
リアルな黒服経験者の声をもとにした黒服デビューストーリー『黒服の翔(カケル)』
大学を中退してフリーターを続けている、21歳の鈴木 翔(カケル)が主人公。
遊ぶお金の余裕もない金欠生活を送っていたが限界を感じ、キャバクラの黒服(ボーイ)という選択肢を見つけた翔。
歌舞伎町のキャバクラ「ブルーシャンデリア」で、面接官の銀島やキャバ嬢のヒナタに気に入られ、ついに黒服デビューが決定!
今日はいよいよ出勤初日だ。
事前に銀島さん(オレの教育係になるらしい)から聞いていた持ち物リストを確認する。
翔:「えーっと、面接で忘れちゃったから改めて提出する身分証と、ワイシャツと黒い革靴は自前で。あとは契約書類が二枚とメモ用具。完璧!」
もう忘れ物で冷や汗をかくのはごめんだ。声に出してチェックしたから間違いない。
ドンキで買ったばかりの真っ白なワイシャツはチープな素材だし、靴も合皮だから不自然な光沢でテカテカしている。
安物だけど、新品は新品だ。
オレも生まれ変わったつもりで、今日から頑張ろう!
キャバクラは夜の店。オレが今日からお世話になる「ブルーシャンデリア」は、18時オープンの店だ。ボーイたちは17時には出勤して、店の掃除や開店準備をする。
今日は初日だから、オレは16時半からの出勤だ。
銀島:「翔くん来たね。今日からよろしく! そうそう、夜の世界での挨拶は、この時間でも『おはようございます』だから覚えといて。じゃあさっそく、おはようございます!」
翔「お、おはようございます!」
夕方に朝の挨拶をすると、緊張と恥ずかしさでムズムズした。
なんていうか、ギョーカイって感じ。
その他にも、キャバ嬢はキャストと呼ぶこと、開店前にはキャストを交えた全員でのミーティングをすることなどを教わりながら、着替えを済ませる。
オレのような試用期間の新人や短期バイトの下っ端黒服は、スーツではなく店のウェイター服を着る。
貸してもらった制服を着て黒い蝶ネクタイを締めると、背筋がシャキッと伸びた。
お店の何がどこにあるのか銀島さんに教わりながら、フロアの床を磨いてテーブルを拭く。毎日丁寧に掃除するらしい。
掃除のあとは搬入された酒ビンをキッチンに運び入れたり、ガスや水回りのチェックをしたり。あちこち動き回るから、オープン前なのにけっこう重労働だ。
銀島:「そうそう、新人の大事な仕事がもうひとつ」
銀島さんがキッチン横で足を止めた。
銀島:「うちでは新人がおしぼりの準備担当ね。おしぼり業者さんが毎日洗浄して運んでくれるから、巻き直してじゅうぶんな量があるかチェックね。おしぼりには『ぬれしぼ』とか、いくつか種類があるんだけど……」
『ぬれしぼ』はお客さんが手を拭いたりする用で、居酒屋なんかで渡されるアレ。
『かわしぼ』は乾いた状態のおしぼりで、グラスの水滴やこぼれた酒を拭う用。
『つめしぼ』は冷たいおしぼりの略。主にお酒で火照ったお客さんに出す。
キャストが手をグーにして絞るような仕草が『おしぼり持ってきてください』のハンドサイン。
接客を中断したりお客様の邪魔になったりしないよう、キャストと黒服がジェスチャーで意思疎通することを『ハンドサイン』というらしい。
銀島さんの「他のサインは少しずつ覚えようね」という気遣いがありがたい。
独特のキャバクラ用語やハンドサインを忘れないようにメモしていると、いよいよ開店の時間が近付いてきた。
出勤してきた店長に挨拶してから、開店前のミーティングがはじまった。
目の前にずらりと並ぶ美人たちが「おはようございます」と挨拶する様子に、思わず圧倒されそうになる。
その中でも求人広告にも出ていたナンバーワン嬢・ユキノさんの存在感はスゴい。
サラッサラの長い黒髪に、セクシーなドレスと赤い口紅が似合いすぎている。どうしよう、美人すぎて緊張してきた……。
銀島さんに新人黒服として紹介され、皆さんに自己紹介の挨拶をする。
翔:「きょっ、今日からお世話になる鈴木翔です! 未経験者ですががんばりますので、よろしくお願いひむッ!」
…………噛んでしまった。この大事な挨拶のタイミングで。
銀島さんやほとんどのキャストは、アガりすぎだろと笑って流してくれた。
けれどその中で一人だけ、呆れたような深いため息をついている。
ユキノ:「ハァ……。銀島さん、また未経験者雇ったんですか?」
銀島:「そういうこと言うなよユキノ。昔から新人黒服に冷たいよな、お前は」
ユキノ:「新人じゃなくて、仕事できない黒服がキライなだけです。……新人のキミ、落ち着きがなさそうね。緊張しすぎでお客様に迷惑かけないでよ?」
ユキノさんの厳しい言葉を受けて、気まずい空気のままミーティングの時間が終わった。
憧れのナンバーワンキャバ嬢さんに嫌われたかもしれない。
まだ開店すらしてないのに、これから黒服としてちゃんとやっていけるのかな……?
キャバクラはお店ごとに独自の慣習やルールがあります。
たとえば、冷たいおしぼりのことは「つめしぼ」や「ひやしぼ」などお店により呼び方が変わります。おしぼり管理はキッチンスタッフが担当するお店もまれにあるそうです。
この「黒服の翔」で予習したことや、他のブログ・コラム記事に載っている内容が、あなたが実際に勤務するお店と異なることもあるかもしれません。
ネットの情報はあくまでも参考程度。実際の研修期間では、お店ごとのルールや先輩の教えをきっちり覚えましょう!