これを読めば、ゼロから立派なキャバクラ黒服(ボーイ)になれる!
リアルな黒服経験者の声をもとにした黒服デビューストーリー『黒服の翔(カケル)』
大学を中退してフリーターを続けている、21歳の鈴木 翔(カケル)が主人公。
遊ぶお金の余裕もない金欠生活を送っていた翔は、歌舞伎町のキャバクラ「ブルーシャンデリア」で黒服として働くことに。
教育係の先輩黒服・銀島、同い年のキャバ嬢・ヒナタには気に入られたが、ナンバーワンキャバ嬢・ユキノからの第一印象は最悪で……?
ヒナタ:「かーけーるーくんっ!」
開店直前、トレンチの持ち方を練習しながら店の端っこでへこんでいたオレに、キャバ嬢のヒナタさんが声をかけてくれた。
翔:「ヒナタさん! おはようございます」
ヒナタ:「さっきはドンマイ。あのユキノ先輩相手じゃ新人くんはみんな緊張しちゃうよ。私にとっては尊敬する先輩だけど、……若手の間だと、影で『雪の女王』って呼ばれてるくらいだから」
雪の女王。そのあだ名を付けた人のセンスに拍手したい。
ミーティングでのユキノさんは、まさに氷の微笑みといえる表情だった。
黒いドレスを飾るキラキラのスパンコールも、今では氷の結晶に見えてくる。
ヒナタ:「元気だしてっ、キャバの世界は楽しいこともいっぱいだよ! ほら、いよいよ開店だよ。私、この瞬間が大好きなんだ」
店のシンボルである青いシャンデリアが、華やかにライトアップされる。
音楽のボリュームが上がり、エントランスホールにはドレスアップしたキャストたちが並んだ。
翔:「すごい……」
ドラマや映画でしか見たことのない、非現実的な光景に圧倒されてしまった。
やがて開店とほぼ同時に、風格のあるお金持ちそうな男性が、キャストを従えてやってきた。
銀島:「いらっしゃいませ佐藤様。一ヶ月ぶりでしょうか、お変わりありませんか?」
銀島さんはお客さんの高級そうな羽織りものを受け取り、スムーズに席へ案内をする。
その合間に同伴していたキャストと、一瞬のハンドサインで意思疎通。
笑顔でお客さんに耳打ちをし、軽く肩を叩かれてなにやら笑いを取っている。
これだよ、これ!
こういうカッコいい黒服になりたくて、オレはここまでやってきたんだから!
新米黒服の業務は『ホール』、つまりウェイターの仕事が基本になる。
テーブルの上が常にピカピカ・カンペキな状態を維持するのがホールの仕事だ。
まだ酒の種類を覚えきれていないオレが命じられた今日のミッションは、灰皿とアイスペールを交換すること。アイスペールというのは氷の入れ物のことだ。
灰皿に一本でも吸い殻があれば、すぐに灰皿を交換する。
氷の量が残り半分を切ったら、その時点で交換して補充する。
この2つは、キャバクラホールとしての「基本のき」らしい。
今日の勤務時間はこれだけやりきればいい、と言われたときは安心していたけれど、ユキノさんの氷の微笑みを思い出すと手が震える。
さっそく、奥のテーブルの灰皿に吸い殻を発見した。
会話の邪魔をしない。音を立てず新しい灰皿に交換。失礼しますと軽く一礼。
銀島さんに言われた通りの手順でそっとテーブルを離れると、キャストがさりげなくウインクしてくれた。
あのキャストさんの名前はまだ覚えきれていないけれど、後で確認してお礼に行こう!
テーブルを見て、灰皿やアイスペールを変えて、またテーブルを見る。
それをひたすら繰り返しているうちに、キャバクラという場所の雰囲気がなんとなくわかってきた。
これまでオレは、キャバクラはキャバ嬢が主役で、女好きのオッサンたちが高い金を払って飲みにくる店だと思っていた。
けれど、一歩踏み入れて気がついた。キャバクラの主役はお客さんなんだ。
キャバ嬢の気遣いや黒服のさりげない気配りによって、お客さんたちは気持ちよくお酒を楽しむことができる。
黒服にあんなに冷たかったユキノさんだって、お客さんに対しては上品な態度でキッチリした接客だ。元気いっぱいでマイペースなヒナタさんも、お酒を勧められたときは丁寧にお礼を言ってから受け取っている。
テーブルというステージで主役が輝くために、ヒロインや脇役たちが誠心誠意おもてなしするのがキャバクラなんだ。
……オレはまだまだ、舞台でいえば木の役みたいなものだけれど。
閉店まで1時間、灰皿と氷の交換にも慣れてきた頃。
そろそろヒナタさんのついているテーブルにアイスペールを持っていこう、と思ったとき、オレは異変に気がついた。
翔:(あれっ? ヒナタさん、かなり顔が赤くなってないか……!?)
キャバクラの主役はお客様。
これはキャバクラ黒服の仕事をするうえで、もっとも大切な認識です。
主役がお客様なら、キャストたちは主役を引き立てるヒロイン役。黒服は脇役です。
ここを理解しているかどうかは、黒服にもキャバ嬢にも共通する、ナイトワークで成功するための必須条件です!
主役の席を盛り上げるために、ホール業務は『さりげなく』を徹底するのがポイント。
銀島さんのようにお客様とコミュニケーションをとる係の黒服はともかく、翔のような新人黒服はあまり目立ってはいけませんね。
『助演男優賞』を目指して、陰の仕事をキッチリこなしていきましょう!
灰皿と氷の交換に慣れてきて、キャバクラの世界についてぼんやりとわかってきた翔。
そこでヒナタの異変に気がついた翔は、いったいどんな行動をとるのか……!?
この記事シリーズは取材をもとにしたフィクションです。
実在の人物・店舗・団体等とは一切関係ありません。